臨床化学検査室は主に血清検体を対象として,大型生化学自動分析装置2台により,蛋白質,酵素,脂質,電解質,無機質などの生化学検査51項目の測定を行っている.検体処理過程はほぼ全て搬送ライン上で自動化され,1週間の検体数は,外来患者数の増加に伴い,10年前の約6000件に対し,現在では約7500件と年々増加傾向にある.検体数の増加に対応するため,当検査室では10年前には3名であったスタッフ人数を4〜5名へ増員し,日常業務にあたっている.
東京大学医学部附属病院査部が60周年を迎える中,臨床化学検査室を取り巻く環境は大きく変化してきた.2004年度に国立大学が法人化されて以来,国からの運営交付金が毎年減額されてゆき,検査部においても検査コストの削減が課題となっている.また,2010年度の診療報酬改訂では外来迅速検体検査加算の加算点数が引き上げられたことから,収益率の向上のためにも検査所要時間の短縮が課題となってきた.臨床化学検査室では多数の検査項目を取り扱っていることから,検査コストの削減や検査所要時間の短縮において重要な役割を担っていると考え,これらの課題の達成に努めてきた.その具体的な成果として,2008年および2013年に行われた検体検査搬送システムの更新では,検体処理能力がより高くかつ低コスト化したシステムの構築を実現してきた.さらにこのような厳しい状況の中においても,検査室の品質や実力を一定の水準に保つため,2007年に臨床検査室の国際規格であるISO 15189を取得し,その更新を現在まで重ねてきた.このように,臨床化学検査室にとってこの10年間は,検査の効率化とその質の担保に努めた期間であった.
検査機器の自動化,測定試薬の汎用化が進むにつれ,臨床化学検査は大きく迅速化,簡易化されてきたが,それは同時に,測定機器および測定試薬について,製造メーカーが検査に関与する部分が大きくなり,臨床検査技師の関与できる部分が少なくなりつつある過程でもあると考えられる.測定機器のトラブルは機器メーカーへ,異常反応は試薬メーカーへと対応を依存してゆき,さもすると検査技師はただのオペレーターに成り下がってしまうという危険性が憂慮される.このような状況の中,それぞれがチーム医療,検査情報システム,基礎研究などの領域で新たな道を模索しているのが,東京大学医学部附属病院査部臨床化学検査室の現状であると思われる.今後,様々な領域において検査技師それぞれが存在価値を見出せるよう日々努力精進していく所存である.
文責 野尻 卓宏・増戸 梨恵