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国公私立大学病院臨床検査技術者研修
症例検討カラ−写真

【症例問題】
図1〜4
【問題1.解答】濾胞性リンパ腫(FL;follicular lymphoma)
  末梢血液像では図1,2に示すような細胞を白血球数17.5×103/μl中に58%(異型細胞としてカウント)認めた.これらの細胞の大きさは,赤血球よりやや大きい10μm程度の小型の細胞で,細胞質はほとんど認めず,merge(併合)大(核と細胞膜との接する部分が多い)でN/C比が大きく,核は濃染し,核の中心部へ向け切れ込みを認める.骨髄像では,末梢血液像と同様な切れ込みのある細胞(図3,4)の浸潤がみられた.
  FCMでは,細胞表面抗原のCD10,CD19,CD20およびκ鎖への偏りが陽性であった.さらに骨髄のFISH法においてBCL2/IgH融合シグナルを66.5%認め,濾胞性リンパ腫と診断された.

図5〜8
【問題2.解答】成人T細胞白血病(ATLL;adult T-cell eukemia/lymphoma)
  末梢血液像では図5,6に示すような細胞を白血球数18.0×103/μl中に33%(異型細胞としてカウント)認めた.これらの細胞の大きさは,12〜15μm程度で,細胞質は狭くN/C比は大きい.核は濃染し,核小体を1,2個有するものもあり,核に特有の切れ込みや花弁状の細胞が認められる.骨髄像では末梢血液像と同様な細胞(図7,8)の浸潤がみられた.
  FCMでは,CD3,CD4,CD25が陽性であった.さらに血清の抗HTLV-T (human T-cell leukemia virus typeT)抗体が陽性,末梢血異常リンパ球にHTLV-TプロウイルスDNAのモノクローナルな組込みをサザンブロット法で証明され, 成人T細胞白血病と診断された.

図9〜14
【問題3.解答】巨赤芽球性貧血(megaloblastic anemia)
  末梢血液像では,図9に示すように赤血球の大小不同がみられる.骨髄像では,赤芽球系細胞の過形成を認め,それらの細胞は図10,11に示すような細胞質が広く,核のクロマチン構造は繊細顆粒状の赤芽球や細胞質の広い多核の赤芽球であった.また芽球の増加はみられなかったが,顆粒球系細胞に巨大後骨髄球や図12に示すような大型の過分節核好中球もみられた.
  本症例の鉄染色(図13)においてMDSのRARSでみられる環状鉄芽球や,PAS染色(図14)でPAS陽性の赤芽球は認められなかった.また染色体検査は正常型であった.一方,ビタミンB12が50pg/ml以下(基準値233〜914pg/ml)と低値を示したことから,本症例はビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血と診断された.

図15〜19
【問題4.解答】急性B細胞リンパ性白血病(B-ALL;B-acute lymphoblastic leukemia )
  末梢血液像では,骨髄球や図15に示すような大きさが20μm程度の中型で細胞質は青く,核小体を数個有する芽球をカウント上1%認めた.骨髄は,有核細胞数61.1×104/μlと過形成を示し,骨髄像では多数の芽球を認めた.それらの芽球の特徴は,図16に示すような大きさが15〜30μm程度の中型から大型でN/C比は比較的大きく,細胞質は青く,細胞質に数個の空胞を認めるものもある.核クロマチン構造は繊細で,核小体を1から数個有するもの,核にくびれのみられるものもある.ペルオキシダーゼ染色を行ったところ,それらの芽球は,図17に示すように陰性であった.
  本症例の芽球は,特殊染色において図18で示す単球系細胞を識別するために有用な非特異的エステラーゼ(α-ナフチルブチレート)染色,図19で示す顆粒球系細胞を識別するために有用な特異的エステラーゼ(ASD-クロロアセテート)染色がともに陰性を示した.またFCMでは,T-リンパ系マーカーのCD3,CD4,CD8が陰性,B-リンパ系マーカーのCD10,CD19,CD20が陽性,骨髄系マーカーのCD13,CD33が陽性,巨核球系マーカーのCD41aが陰性を示した.細胞質内の解析では,骨髄系マーカーのcMPOは陰性,Bリンパ系マーカーのcCD79aが陽性であった.FCMの解析結果をもとにBAL(biphenotypic acute leukemia)のスコアリングシステムにより従い分類を行なった.この分類法では2つの異なる細胞系統でそれぞれ2.0点を越えた場合にBALと診断される.今回の解析ではBリンパ系が5.0点,骨髄系が2.0点であり,Bリンパ系のみが2.0点を越え,Bリンパ系の形質のみを示したため本症例は急性B細胞リンパ性白血病と診断された.

図20〜22
【問題5.解答】パルボウィルスB19感染による赤芽球癆
  末梢血液像では特に異常所見は認められなかった.骨髄は,有核細胞数7.1×104/μl,骨髄像では,図20に示すように赤芽球系細胞の著減が認められた.さらに図21,22に示すように,巨大前赤芽球がみられ特徴的な像を示したことよりパルボウィルスB19感染による赤芽球癆に診断された.

図23〜26
【問題6.解答】Burkitt lymphma/leukemia(ALL-L3;acute lymphoblastic leukemia-L3)
  末梢血液像では,図23に示すような細胞の大きさが15〜25μmで細胞質の塩基性は強く多数の空胞を有し,核クロマチンは濃染した芽球をカウント上7.5%認めた.骨髄は,有核細胞数15.3×104/μlと正形成を示し,骨髄像では末梢血液像と同様な芽球を多数認めた.それらの芽球の特徴として,細胞の大きさは15〜25μmで,細胞質の塩基性は強く,細胞質に多数の空胞を認めることがあげられる(図24,25).核クロマチン構造は濃染し,核小体を1から数個有するものもある.また図26に示すように芽球のペルオキシダーゼ染色は陰性であった.
  本症例の芽球は,FCMでは,CD10,CD19,CD20が陽性,細胞表面免疫グロブリンλに偏りがみられた.また染色体検査においてはt(8;14)(q24;q32)の転座を認め,FISH法でc-myc転座陽性細胞が検出されたことより本症例はBurkitt lymphma/leukemiaと診断された.

図27〜30
【問題7. 解答】セザリ−症候群(SS:sezary syndrome)
  末梢血液像では,図27に示すような細胞の大きさが12〜15μm程度で,N/C比は大きく,核形が不正で,核に不規則に入り込んだ重なりや雛状形成がみられる細胞の増加が特徴である.これらの細胞を,白血球数22.4×103/μl中に68.5%(異型細胞にカウント)認めた.骨髄像では図28に示すような,核クロマチン構造が濃染し,核に切れ込みのみられる細胞や図29に示すような核に不規則に入り込んだ重なりや雛状形成がみられる細胞の浸潤をみとめた.それらの細胞は図30に示すPAS染色で顆粒状に陽性であった.
  本症例のFCMの結果は,CD3/CD4が陽性でヘルパーTリンパ球の性格を有し,IL-2レセプターであるCD25が陰性であった.さらに血清の抗HTLV-T (human T-cell leukemia virus typeT)抗体が陰性であった.また皮膚生検で脳回状の複雑な核を有するリンパ系細胞の著名な浸潤を認めたこと,リンパ節生検で同様な細胞がみられたことよりセザリー症候群と診断された.

図31〜40
【問題8. 解答】好酸球増加を伴う急性骨髄単球性白血病(AML-M4E;M4 with eosinophilia)
  末梢血液像では,図31,32に示すような,細胞の大きさが15〜20μm程度の核にくびれのある芽球をカウント上41%認めた.その他,単球24%,好酸球7.0%と増加を認めた.骨髄像では,図33,34に示すような末梢血液と同様に核にくびれを認め,核小体を数個有する芽球の増加や粗大な顆粒を有する好酸球を認めた.ペルオキシダーゼ染色を行ったところ,それらの芽球のほとんどは,図35に示すように陽性であった.
  本症例の芽球は,特殊染色において図36で示す単球系細胞を識別するために有用な非特異的エステラーゼ(α-ナフチルブチレート)染色では約30%の細胞に茶褐色の陽性像を示し,それらの陽性細胞はNaFにより阻害された(図37).非特異的エステラーゼと顆粒球系細胞を識別するために有用な特異的エステラーゼ(ASD-クロロアセテート)染色を組み合わせた二重染色では(図38),茶褐色に陽性像を示す単球系の細胞と青色に染まる顆粒球系の細胞を認めた.二重染色においても茶褐色に陽性像を示した単球系細胞はNaFにより阻害された(図39).またPAS染色において好酸球と思われる細胞が強陽性を示した(図40).
染色体検査では,16番染色体の逆位であるinv(16)(p13q22)を認め,遺伝子検査では,CBFβ/ MYH11キメラmRNAが検出された.以上のことより本症例は好酸球増加を伴う急性骨髄単球性白血病と診断された.

図41〜46
【問題9. 解答】biphenotypic acute leukemia(BAL)
  末梢血液像では,図41に示すように,細胞の大きさが20μm程度で細胞質は比較的広くてN/C比は小さく,細胞質の塩基性は強く数個の空胞を有し,核クロマチン構造は繊細で核小体を認める芽球をカウント上7.5%認めた.骨髄像では,図42,43に示すように末梢血液と同様な空胞を数個有する芽球を多数認めた.ペルオキシダーゼ染色を行ったところ,それらの芽球は,図44に示すように陰性であった.
  本症例の芽球は,特殊染色において図45で示す単球系細胞を識別するために有用な非特異的エステラーゼ(α-ナフチルブチレート)染色,図46で示す非特異的エステラーゼと顆粒球系細胞を識別するために有用な特異的エステラーゼ(ASD-クロロアセテート)染色を組み合わせた二重染色でともに陰性を示した.またFCMでは,T-リンパ系マーカーのCD2,CD3,CD4,CD7,CD8が陰性,B-リンパ系マーカーのCD19が陽性,骨髄系マーカーのCD13,CD33が陽性,巨核球系マーカーのCD41aが陰性を示した.細胞質内の解析では,骨髄系マーカーのcMPOとBリンパ系マーカーのcCD79aがともに陽性であった.FCMの解析結果をもとにBAL(biphenotypic acute leukemia)のスコアリングシステムにより従い分類を行なった.この分類法では2つの異なる細胞系統でそれぞれ2.0点を越えた場合にBALと診断される.今回の解析ではBリンパ系が3.0点,骨髄系が4.0点であり,Bリンパ系および骨髄球系ともに2.0点を越え,Bリンパ系と骨髄球系の2つの形質を示していたため本症例はbiphenotypic acute leukemiaと診断された.

図47〜54
【問題10. 解答】スキルス胃がんの骨髄転移
  末梢血液像では,図47,48,49に示すように好中球系細胞の増加と幼若顆粒球系細胞の出現,多数の赤芽球の出現がみられる白赤芽球症(Leukoerythroblastosis)が特徴的である.
骨髄像では図50に示すように芽球の増加は認めず,図51,52,53に示すような細胞の集塊像を認めた.それらの細胞は集積性,細胞間の境界が不明瞭などの特徴があり,PAS染色(図54)において顆粒状に陽性であった.
  本症例は,特徴的な細胞集塊がみられたこと,慢性骨髄増殖性疾患でみられる脾腫,肝腫などの身体所見がみられなかったこと,スキルス胃がんの既往歴があり,内視鏡において胃がんの再発を認めたことから,スキルス胃がんの骨髄への転移と診断された.

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